
女性のライフステージの中でも、更年期はうつ病を発症しやすい時期でもあります。
今のうつ状態が更年期障害によるものなのか、それとも本格的なうつ病なのか見分けるのはなかなか難しいのですが、今回は女性ホルモンとうつの関係を中心に女性のうつ病について紹介します。
女性のうつ病の特徴は女性ホルモンの影響!
うつ病を発症する頻度は、男性より女性のほうが多く、なんと約2倍と言われています。比較的軽い抑うつ状態が長期間続く気分変調症や、非定型うつ病も、男性の4~6倍です。
その要因のひとつが女性ホルモンの影響と言われています。
エストロゲンは脳の神経伝達物質であるセロトニンやノルアドレナリンの働きを調整する作用があるので、エストロゲンの分泌が不安定になるとこれらの神経伝達物質もバランスを崩し、情緒不安定になってしまうのですね。
- ※セロトニン→情緒を安定させる・痛みを感じにくくする・気分をシャキッとさせる
- ※ノルアドレナリン→興奮や神経の高ぶりを鎮める(増えすぎると不安感が増長される)
女性がうつ病を発症しやすい時期は?
女性の一生でエストロゲンの影響を受けやすい時期はうつ病にかかりやすいといえます。それは主に以下の4つの時期です。
- 月経が始まる思春期
- 出産から6ヶ月から1年以内
- 閉経前の更年期
- 老年期
この中で産後うつ・更年期うつといったワードはよく聞きますね。一番多いのは想像通り「産後うつ」です。次いで老年期、そして思春期と更年期です。
更年期うつ病に関しては、閉経前のほうが発症しやすいといわれていて、エストロゲンが不安定な時期であることが関係しています。
閉経後は、微量ではあるけれど量は一定しているのでホルモンの変動がきっかけである情緒不安定は起こりにくくなるからです
どんな状態になったらうつ病?うつ病の診断基準
ここで、うつ状態とうつ病について診断の目安を紹介します。
以下のうち、1または2を含む症状が5つ以上、2週間以上続けてほとんど毎日(ほとんど1日中)ある場合うつ病の可能性が高いといえます。
- 憂うつで気分が落ち込んだ日が続く
- ほとんどすべての活動において、興味や喜びが著しく減退している
- 著しい体重減少、または体重増加。または、ほとんど毎日の食欲減退または食欲増進がある
- 不眠または睡眠過多が続いている
- 動作が緩慢になった、または落ち着きをなくしている
- 疲れやすく、気力が減退している
- 無価値感、罪悪感が強くなる
- 思考力や集中力、決断力が低下した
- 死にたいと思い、死ぬ方法を繰り返し考える
米国精神医学会より:DSM-Ⅳ-TRより 強いストレスにさらされると、誰でも憂うつな気分になりますね。ただ、通常はその感情は次第に落ち着き、平常心に戻ります。
うつ病の場合は、その状態が長く続いて日常生活に支障があるかどうかです。
また、うつ病では睡眠障害も必ず伴います。うつ病の場合は夜中や早朝にかけて目が覚めてしまう中途覚醒が特徴とされています。
また、1日のうちで変化するのも特徴で、たいていは朝起きたときから午前中にかけてもっとも具合が悪く、午後から夕方にかけて和らいでいきます。
更年期の体の不調は仮面うつ病かも!?
仮面うつ病という言葉を聞いたことはありませんか?これは、体の不調が心の不調を隠してしまっている状態のことです。
言葉のイメージから、仮面をかぶったように無表情になった状態と誤解している人も多いかと思いますがそうじゃないんです。
軽いうつ病の場合は、気分の落ち込みなど精神状態よりも「頭が重い」「めまいが酷い」「手足が痺れる」「腰が痛い」「動悸や息切れがする」といった、体の不調を訴えることも少なくありません。
これって更年期障害と重なる症状ですね。実際に更年期障害の治療で婦人科を受診して、カウンセリングを受けていく中でうつ病がわかるケースも少なくないのです。
うつ病はどうして発症する?うつ病になりやすい性格ってある?
現代人のうつ病はストレス過多によって発症することがほとんどです。誰でもがかかる危険性をはらんでいるわけですね。
同じストレスにさらされてもかかる人とかからない人がいます。 うつ病にかかりやすい気質はあります。一般的には、
- 几帳面で真面目
- 責任感が強く、融通が利かない
- 人に頼られると嫌と言えない
- 自己評価が低い
- 執着心が強く、一度起こった感情が冷めにくい
このようなタイプの人がかかりやすいと言われています。ただ、うつ病がなぜ起こるのか、その原因やメカニズムは正確にはわかっていません。
もともとの性格や考え方の傾向、そして環境要因が複雑に絡み合っているのです。
うつ病は強いストレスや環境の変化が発症の要因
うつ病は、決して心が弱い人がかかる病気ではない、誰でもそのリスクはあるということはずいぶん知られるようになってきました。
まじめで何事もこつこつ取り組む人がかかりやすく、現代のように社会構造などが急激に変化する時代にはストレスも大きくなることはうなずけます。
更年期にうつ病の発症が増えるのは、今までと環境が大きく変わることも要因なのです。
更年期にありがちな環境の変化、ストレスになってない?
更年期世代は夫の定年退職や異動がある人もいますね。夫婦二人で過ごす時間に変化が出てくると、やはりストレスになります。夫原病なんて言葉も流行りましたね。
親の介護問題も持ち上がる頃でもあります。夫の両親の介護であっても実の親であっても介護は大変です。頑張り屋さんほど、自分ひとりで抱え込んでストレスを溜め込むことになりかねません。
最近は高齢出産も増え、まだまだ思春期の子どものいる人も多いです。反抗期でもありますし、教育についても頭の痛い問題です。
更年期は喪失の時期!環境の変化を上手に乗り切りましょう
家庭では、子どもが独立する人も多く、母親としての喪失感を感じる人もいます。いわゆる空の巣症候群ですね。
また、更年期になって急にシワやたるみが気になってきた、白髪が目立ってきたなど容姿の衰えを実感して、女性としての自信も失いがちになります。
実際に親や親しい友人の死を体験して、ひどい喪失感を感じることも増えてくる年代です。
こうした環境の変化は誰にでも起こること。この変化をどう上手く乗り切るかが、更年期やポスト更年期を健康で楽しく過ごすかのポイントになります。
うつ気分や軽度のうつ状態はセルフケアで改善
本格的なうつ病になる前に、知っておくと便利なうつ気分の改善法を3つ紹介します。
有酸素運動で気分爽快
運動は健康に良いことは確かなのですが、うつ病には特に有酸素運動が効果があります。
ウォーキングや水泳など普通の呼吸をしながら持続的に行う軽い運動が有酸素運動です。 有酸素運動が、脳のセロトニンを増やしたり、ベータエンドルフィンという麻薬様物質を促して気分を良くするのでは、と推測されています。
週3回以上体を動かすことが理想ですが、やらなければ!とストレスになっては元も子もありません。週末だけ運動をすることから始めても良いですね。
更年期以降の健康のためにも、運動の習慣をもつことはおすすめです。
不眠に効くバレリアン
ドイツで行われた不眠症患者を対象にした研究で、高い効果があると報告されたハーブサプリがバレリアンです。
これは、セイヨウカノコソウというハーブで古くから薬草として使われてきました。不眠症・神経過敏・不安に効果があるとされています。
独特のにおいがあるので、コーティングされた錠剤が良いかもしれません。
抗うつハーブのセントジョーンズワート
セントジョーンズワートは欧米では抗うつハーブとして一般に親しまれているハーブです。うつ気分を解消してくれることからサンシャインハーブとも呼ばれています。
軽症から中程度のうつ病に対しては、抗うつ剤(SSRI)とほぼ同等の効果があることが研究によって確認されています。
ただ、効果を実感するまでに2週間程度かかるので焦らずに続けてみましょう。
注意点があります。セントジョーンズワートは一部の薬の効果を低下させるという報告があるので、薬を飲んでいる人は医師に必ず相談してください。
更年期うつ病の治療の方法は?どの診療科で受ける?
先ほど紹介したセルフケアはあくまで本格的なうつ病になる前のものです。日常生活もままならなくなるほどの状態であれば、迷わず受診しましょう。
更年期世代であればまずは婦人科
更年期の症状では、多くの場合うつ症状を伴います。だるさや倦怠感、頭がずっと重いといった症状は多かれ少なかれ感じている人は多いはず。
それが、単にエストロゲンの減少によるものなのか、純粋なうつ病なのか見分けるのはとても難しいのが現状です。
更年期外来や更年期治療に長けた婦人科医であれば、心の不調がうつ病によるものかどうか常に意識して診療にあたります。
うつ病や不安障害は専用の心理テストで判定できますし、必要と判断すれば精神科や心療内科を紹介してもらえます。
女性の場合、うつ病に見えてもHRT(ホルモン補充療法)で症状が改善されることも多いし、軽いうつであればカウンセリングや抗うつ剤、漢方薬での治療をそのまま婦人科で受けることもあります。
更年期うつ病に使われる薬は?
うつ病の治療は抗うつ薬を使った薬物療法が基本になります。タイプによって薬の種類や量は違いますが、更年期に一般的に使われる薬を紹介します。
多くの抗うつ薬は、神経細胞から放出された神経伝達物質が神経細胞に再び取り込まれることを防ぐことによってその量を増やします。
脳の情報伝達を活発にすることによってうつ症状を改善するわけです。 SSRIはセロトニンの再取り込みだけを阻害する薬です。
副作用として消化器症状が現れやすく、胃の粘膜を保護する薬を併用することも多いです。また、他の薬と影響しあうので服用中の薬がある場合は医師に必ず伝えましょう。
このSSRIは比較的よく使われる抗うつ薬ですが、ほてりやのぼせなどの血管運動障害にも効果があることがわかっています。
うつ病にはほとんどの場合不眠が伴います。治療では、抗うつ薬と睡眠薬を併用することもあり、実際に抗うつ薬を減量していく上で、睡眠薬を使った群の方が減量達成率が高いという報告もあります。
睡眠薬は作用時間の長さによって、短時間型、長時間型などに別れ種類もたくさんあります。医師の処方を守って適正に飲んでいれば、薬が増えていってやめられなくなるといってことはありません。
ただ、心理的な依存性があることは否定できません。
うつ病の薬物治療で注意すること
うつ病の治療では、主に抗うつ薬と睡眠薬が用いられますが、不安や緊張感が強いときには抗不安薬をプラスすることもあります。
抗不安薬は比較的すぐに効きやすく、不安感が解消されたと感じる人が多いようです。反面、薬に依存しやすくなるといったリスクもあります。
抗うつ薬は効果を実感するまでに2~3週間かかるので、焦らず根気良く治療していくことが必要です。 その他注意点です。
処方された薬の特徴や服用上の注意、服用期間、副作用などの説明はしっかり聞きましょう。分からないことがあれば必ず質問しましょう。
良くなってきたからといって薬の量を自己判断で減らしたり中止しないようにしましょう。
抗うつ薬にはいくつか種類があるので、副作用で使いにくい場合には他の薬に変えて治療をします。 また、服用量は効果と副作用のバランスを見ながら決めていきます。心配なことがあれば何でも医師に伝えましょう。
まとめ
気分が落ち込む、特に何もないのに不安感が・・・、最近眠りが浅くて夜中に目が覚めてしまう。これらは更年期の症状としてもよく耳にします。
また、そうした自覚症状はないけれど頭痛やほてりなど更年期障害にありがちは体の不調として現れることも少なくありません。
更年期には体の不調だけでなく精神面も不安定になることを自覚して、積極的にリフレッシュの習慣をつけるようにしてください。
それでもなんかおかしい、という場合はまずは婦人科でいいので医師に相談しましょう。