HRT(ホルモン補充療法)は、薬を使った更年期障害の治療です。今回はHTRを受ける上での必要な検査について紹介します。
その不調本当に更年期障害?専門家の力が必要な理由
50代にさしかかる頃、なんとなく体調がすぐれない、頭痛や肩こりが酷い、疲れがとれないといった不調を感じると、「もしかして更年期?」と思う人も多いですね。
ホットフラッシュや生理不順などがあれば大抵の女性は「来たか!」と感じるはずです。
でも、腰痛や関節痛が酷いときは整形外科に、頭痛や便秘、下痢の悩みなら内科、ドライアイが気になれば眼科・・・といった風にさまざまな診療科に行っては異常なしといわれた経験を持つ人が多いのも事実です。
40代になって不調が出たら婦人科へ!
更年期の症状はそれこそ全身に及ぶといっても良いほどです。動悸が酷ければ心臓病を疑うし耳鳴りも多い症状なので耳鼻科系の疾患ではないかと思うのも仕方ありません。
ただ、40代で何かしら不調を感じたらまずは婦人科を受診しましょう。
更年期障害かどうかの診断をする目的は?
婦人科ではまず訴えている症状が更年期によるものかどうかを判断します。診断は問診・内診・検査を総合的に見て判断します。
その理由は、更年期症状かどうかの判断の目的のひとつが、他の病気が原因になっていないことを確認することにあるからです。
例えば、甲状腺機能低下症でもだるさや倦怠感を訴えることがあり、その場合は治療内容も診療科も別になります。そういった基礎疾患を除外していくためにも各種必要な検査を行います。
更年期障害の検査と治療の流れは?
まず、婦人科では更年期の治療に入る前に行う検査があります。初診では問診を中心に患者の症状を把握し、内診や検査をします。検査結果が出るまでの間、症状に応じて薬が処方されることもあります。
問診はとても重要!正直になんでも伝えましょう
多くの病院では、受付のときに問診表を渡されます。月経期間や周期など月経については必須項目です。その他既往病歴、服用中の薬など記入する項目は少なくありません。
その場になって慌てないように、あらかじめメモを作っておきましょう。抑えておきたいポイントです。
- 最終月経
- 月経周期
- かかったことのある病気
- 服用中の薬
- 家族の病歴(乳がん・子宮がん・高血圧・糖尿病など)
- 今一番つらい症状
- 症状の始まったのはいつでどんな状態か
内診で子宮や卵巣の状態をチェック
初診時に内診を行い、膣の様子や子宮筋腫、子宮内膜症、卵巣脳腫などの有無をみます。このときに子宮ガン検査のために細胞診を行うのが一般的です。
HRTを受ける際には必須の検査でもあります。
婦人科の内診を苦手とする人は多いですが、緊張すると体に力が入ってかえって痛みを感じたり診察しにくくなります。まずはリラックス!深呼吸をしてお腹の緊張をとりましょう。
ホルモン量・健康状態をみる一般血液検査
血液検査では必要に応じていくつかチェックする項目があります。
血液中のエストロゲンが減少して卵胞刺激ホルモンが増加していれば更年期と診断されます。具体的には血液中のE2・LH・FSHの3つのホルモンの濃度で判断されます。
- E2-エストラジオール
- LH-黄体化ホルモン
- FSH-卵胞刺激ホルモン
40歳代になると卵巣機能がだんだん低下してきて無排卵月経が多くなります。そのとき、卵巣を刺激するFSHが、遅れてLHが上昇します。
そのためしばらくはE2は減少しませんが、卵巣の機能がさらに低下するといくら刺激を受けてもE2の量は下がっていきます。
甲状腺の病気は20代から50代の女性に多くみられる疾患です。特にバセドウ病と橋本病はよく知られていますね。
このふたつは同じ甲状腺の機能異常から起こりますが、バセドウ病は甲状腺機能亢進症、橋本病は甲状腺機能低下症です。
倦怠感・無気力感・汗をかく・イライラする・頻尿・不眠・口が渇くなど
便秘・皮膚の乾燥・声のかすれ・無気力・だるさがとれない・記憶力の低下など
症状も更年期のそれとよく似ているので注意が必要なのですね。
更年期以降は生活習慣病のリスクが上がります。これは女性の骨や血管を丈夫に保ってきたエストロゲンの恩恵がなくなってしまうからです。
血液一般検査ではコレステロール値や肝機能をチェックします。
エストロゲンの恩恵がなくなる更年期以降に必要な検査
閉経を迎えた女性にとって骨粗しょう症は宿命ともいえる疾患です。
エストロゲンには骨量を強く保つ働きがあるっことが分かっています。エストロゲンの分泌がごくわずかになるポスト更年期は骨の健康をいかに保つかが大事になってきます。
骨量を測定する検査は更年期を迎えた女性にはぜひ受けてもらいたい検査のひとつです。
自覚症状のある更年期障害が改善されても、骨粗しょう症のリスクが高い場合はHRTの継続も治療の目的のひとつになるからです。
HRTを視野に入れる場合は必須の乳がん検査
乳がんは30代後半から増え始め、40代後半から50代前半にピークを迎えます。まさに更年期を襲う病気ですね。
以前は日本人は閉経前が多かったのですが、最近は閉経後の60歳代前半にも増えています。 また、HRTは乳がんリスクが完全に解消されたわけではありません。
治療を視野に入れている場合には必ず受ける検査です。もちろん、HRT継続中にも定期的に検査が必要になります。
乳がんにかかる若い人が増えている?
乳がんについて近年いろいろな情報が錯綜していますので、少しまとめてみます。
まず、若い人と年配者では乳がん検診に対するリスクとベネフィットが明らかに違うという事実があります。
ご存知の通り、日本人の乳がん罹患率は上昇しています。ドラマにもなった「余命一ヶ月の花嫁」やフリーアナウンサーの小林真央さんが若くして乳がんで命を落としていることもあって、若い人の乳がんが増えていると思っている人も多いのでは?
結論を言うと、かかっている人は増えているけれど、全体の比率はそれほど変わらないということです。
もともと乳がんは先ほど書いたように、まさに更年期世代に発症する人が多い疾患です。30代以下の罹患率はわずか6%程度で推移しています。
さらに、推奨されているマンモグラフィーによる画像診断は、乳腺の発達している若い世代にはリスクがベネフィットを上回るという専門家が少なくないのです。
ただ、更年期世代は特に注意して欲しい疾患であることに変わりはありません。授乳経験のある人であればなおさらマンモグラフィーの有効性は高いので、HRTを受けない人でも国の推奨する2年に1度程度は受けるとよいでしょう。
乳がん検診は何科で受けるのがよいか
さて、乳がん検診を何科で受けるのが良いかですが、ずばり乳腺外科などの専門家です。 婦人科でも触診や視診は行いますが、専門の技師や医師による検診が安心です。
最近は人員や設備の整った婦人科も増えていますので、通院可能なエリアをチェックしてみてくださいね。
更年期治療の初診から再診、治療開始までのおおまかな流れ
検査項目を個別に紹介してきましたが、おおまかな流れをまとめました。
初診時にすでに閉経を迎えていてエストロゲンの低下が明確なときは血中のホルモン検査は行いません。
また、やはり閉経を迎えていて症状がきつくてつらいときは、女性ホルモンを投与して様子をみることもあります。
更年期障害の診断は総合的に判断!特徴的な症状が決め手にも?
更年期障害の診断が出るまでには、想像したより多くの検査が必要になると感じたでしょうか?更年期の症状だと確定させるためには、その他の原因を除いていくことも重要な判断材料になります。
さらに、骨量や脂質代謝などは更年期の診断のためというだけでなく、更年期以降の健康を見据えた女性のトータルヘルスにも必要です。最近の更年期治療の目的は、症状を改善することだけでなく、老年期のQOLを考えているのですね。
医師が判断材料とする目安には、検査で出てくる数値だけでなく、更年期であること(40代後半)とほてりやのぼせ、発汗が症状の大半を占める場合は、更年期障害が濃厚だと考えます。
治療方法は本人の意思を重視することが基本
問診・視診・各種検査結果から更年期の症状と診断されると、具体的な治療についての方向を決めて行きます。
治療方針は医師の十分な説明のもと、患者本人が納得して行っていくことが大切です。
特に、HRTを希望する場合は薬による副作用とリスクを含めて、医師から丁寧な説明を受けるようにしましょう。疑問に思う点があれば遠慮なく質問し、信頼関係を築いてください。
HRTの治療中は定期健診を受けましょう
更年期障害と診断されても、だれでもHRTが受けられるわけではありません。HRTが受けられない人もいますし、慎重に行う必要のある人もいます。
治療を始める前にも全身の詳しい検査は行いますが、治療中も定期的に検診が必要になります。検査の目的は副作用のチェックとともに、更年期以降の健康管理のためです。
診察ごとに受ける問診と診察
問診で薬の効果をみたり、副作用の有無をチェックして必要であれば薬を調整していきます。
- 体重、身長測定
- 内診と超音波検査で子宮内のチェック
- 血液検査で肝機能や腎機能、血中の脂質など
- 骨量測定
- 乳がん検診(触診)
- 必要に応じて子宮体がん検査
- 一般血液検査、尿検査
- 子宮体がん、子宮頸がん検査
- 乳がん検診(超音波検査やマンモグラフィなどの精密検査)
これらの検査は病院によって多少異なります。その他、心電図や腹部や骨盤部の超音波検査など、必要とされる検査は積極的に受けましょう。
まとめ
HTRは基本的に医師の管理下で行います。そのため、HRTを受ける前と受けていく途中でもいくつかの検査が必要になります。
その理由は、ひとつは今の症状が本当に更年期の症状なのか見極めるため、もうひとつはHRTを適切に行うことができるか判断するためです。
今回は、HRTを受ける際に必ず行う検査と受ける場合に定期的に必要な検査、そして更年期障害と診断するために行う検査について詳しく紹介しました。
更年期障害の治療にHTRを考えている人の参考になれば嬉しいです。