
更年期障害や更年期のさまざまな症状に、もっとも有効とされているのがHRT(ホルモン補充療法)です。今回は、HRTとはどんな治療かを詳しく紹介します。
HRTは不足した女性ホルモンを外から補う原因治療
HRT(HormoneReplacementTherapy)は、減少した女性ホルモンを外から補う治療法です。
更年期障害はエストロゲンの急激な減少に体が追いつかない状態ですね。 厳密に言えば、女性ホルモンが減ったことではなく、急激に減少したという変化に脳が混乱して起こります。
ここで問題になってくるのが女性ホルモンのエストロゲンの減少なのですが、閉経してしばらくするとその状態に体が次第に慣れてきます。
これが更年期はいずれは治まるといわれる理由です。
HRTの目的は、エストロゲンを外から補うことで減少のカーブを緩やかにして、エストロゲンの微小な量に無理なく体を慣れさせていこうとソフトランディングさせることにあります。
HRTは紆余曲折の歴史を経て確立された
HRTは欧米ではその歴史は古く、現在も使われているプレマリン(結合型エストロゲン)は1942年に発売されています。これは、妊娠した馬の尿から抽出された天然型のエストロゲンです。
エストロゲン剤と子宮体ガンの関係
当時は薬を服用した女性が若返るともてはやされましたが、1970年代に入ると子宮体がんのリスクが増えることがわかり、一時期下火になりました。
その後、研究開発がすすめられ、エストロゲンだけでなくプロゲステロンを加えることで子宮体がんの発生リスクが抑えられることがわかり、HRTは復活しました。
現在のHRTは一部のケースを除き、エストロゲンとプロゲステロンの2剤を併用するのが一般的です。
HRTと乳がんの関係-2002年WHI試験とは?
ところで、日本でもホルモン療法と聞くと乳がんのリスクが高まると不安な声が聞かれることが多いですね。それは、2002年にアメリカからWHIという疫学調査の結果が発表されたことが大きく影響しています。
まず、アメリカでのHRTの普及について説明すると、1986年には骨粗しょう症の治療に対して承認をしています。1990年代には更年期障害、骨粗しょう症、脂質異常だけでなく、皮膚への効果や変形性関節症予防など、閉経後の女性の予防医学として推奨していました。
さらに、アメリカ人は心疾患を患う人が多いことから、冠動脈疾患の予防効果も期待していたのです。そこで、閉経後女性にHRTを行ってリスクとベネフィット(得られる利益)を検証しました。
その結果は、大方の予想を裏切るものだったのです。 まず、乳がんリスクが予想を上回ったことから試験開始後5.2年で試験が中止されることになりました。
また、冠動脈疾患に対する予防効果も得ることができませんでした。 この試験結果が世界中に公表され、HRTを行う人が減少してしまったのです。
HRTで乳がんリスクは増えるのか?WHIの問題点
後にこのWHI試験にはいくつかの問題点があることが指摘されています。主な点は以下です。
- 調査対象者が63.3歳(高齢になってからの投与)
- 肥満や脂質異常の人が多かった(約70%が肥満)
- 喫煙者が多かった(約50%)
その他投与方法にも問題がありました。 実は、この際中止されたのは子宮のある女性にエストロゲンとプロゲステロンの併用投与をした群でした。
それとは別に子宮のない女性に対してエストロゲンの単体投与の試験はその後も続けられていました。 このふたつの調査結果とその後の知見により、現在まででHRTに対するおおよその見解があります。
- 乳がんリスクは5年以内であれば増えない
- 60歳未満または閉経後10年以内の女性ではリスクよりメリットのほうが高い
HRTはどんな更年期症状に効果がある?
このように、HRTはたくさんの研究や試験、調査結果から現在では更年期治療の柱となっているわけですが、具体的にその治療効果はどんなものか気になりますね。 HRTがよく効く症状とその他のメリットを紹介します。
血管運動神経症状には即効性も!
更年期症状の代表とも言えるホットフラッシュや動悸、息切れに高い効果を発揮します。ほとんどの女性が投与を始めて2~3週間で実感するほどです。
二つの側面からうつ気分も解消!
なんとなく憂うつといったうつ病までではない軽度のうつ気分であれば効果は高いです。
これは、エストロゲン自体が気分を明るくする作用があることと、ホットフラッシュなどのつらい症状が解消されたことからくる二次的なものかは判断は難しいところですが、多くの女性が実感しています。
皮膚や粘膜にうるおいが戻る
エストロゲンには皮膚や粘膜にうるおいを保つ作用があります。膣のヒリヒリ感や性交痛の解消になります。
更年期には背中を蟻が走ったような蟻走感や皮膚のかゆみ・かさつきなども悩みの種ですが、これらも改善されます。
HRTはアンチエイジング効果が高いことから、欧米では第2の人生を楽しくイキイキと過ごすために、5年10年と続ける人も少なくありません。
骨粗しょう症の予防にも効果が!
女性の骨量は30代をピークに減り続けます。エストロゲンがなくなった閉経後は骨の生成が破壊に追いつかなくなり、数年から10年ほどで2~3割減少してしまうんです。
65歳以上では半数近くの人が骨粗しょう症にかかっているといわれます。80歳以上ではなんと7割もの人が!
骨粗しょう症の予防という点から見た場合、遅くとも閉経後2~3年以内から始めることを推奨しています。
寝たきりになる原因は骨粗しょう症による骨折が、脳出血などの脳血管障害に次いで2位です。骨粗しょう症予防はアフター更年期の女性にとってキーワードのひとつといえそうです。
コレステロール値を低下させる
エストロゲンには悪玉コレステロールを低下させて善玉コレステロールの合成を促進させる作用があります。HRTを行うことによって動脈硬化を防ぐ効果も期待できます
。
HRTは誰でも受けられる?受けられない場合とは?
更年期障害に高い効果を発揮するHRTですが、中には受けることができない人、受ける際には慎重に行うべき人、条件付で行う場合の人がいます。
日本産婦人科学会のホルモン補充療法ガイドライン2017年度版から紹介します。
- 重度の活動性肝疾患
- 現在の乳ガンとその既往
- 現在の子宮内膜ガンと低悪性度子宮内膜間質肉腫
- 原因不明の不正性器出血
- 妊娠が疑われる場合
- 急性血栓性静脈炎または静脈血栓塞栓症とその既往
- 心筋梗塞および冠動脈に動脈硬化性病変の既往
- 脳卒中の既往
- 子宮内膜ガンの既往
- 卵巣ガンの既往
- 肥満
- 60歳以上または閉経後10年以上の新規投与
- 血栓症のリスクを有する場合
- 冠攣縮および微小血管狭心症の既往
- 慢性肝疾患
- 胆嚢炎および胆石症の既往
- 重症の高トリグリセリド血症
- コントロール不良な糖尿病
- コントロール不良な高血圧
- 子宮筋腫,子宮内膜症,子宮腺筋症の既往
- 片頭痛
- てんかん
- 急性ポルフィリン症
- 全身性エリテマトーデス(SLE)
ガイドラインではこう書いてありますが、要点をまとめるとこういうことです。
HRTは適切に行えば子宮体ガンや乳ガンのリスクはあまりありませんが、現在かかっている人は行えません。
上記の項目にはありませんが、乳ガンに関しては、家族にこれらのガン履歴がある場合も行わない場合が多いです。 乳ガンにはエストロゲン依存性のガンがあり、日本人の乳ガンの65%がこのタイプ。
これは、がん細胞にエストロゲン受容体があり、ここにエストロゲンが結合してガン細胞が増殖するガンだからです。
また、エストロゲンは血液を固まりやすくする作用があり、血栓症を引き起こすリスクが高くなります。そのため、心筋梗塞や脳梗塞などにかかったことがある人も行えません。
子宮内膜症や子宮筋腫を持っている人は、エストロゲンが刺激になって成長する可能性があるので、注意して行う必要があります。
肥満や喫煙週間のある人も静脈瘤や血栓症のリスクが高いので、慎重に行うグループに分けられます。
HRTを行う場合は、これらのリスクを持った人は医師と十分話し合い、納得の上で治療を受けるようにしてください。またHRT治療中は、定期的な生活習慣病、婦人科系の検診は必須となります。
まとめ
更年期障害や更年期のさまざまな症状に、もっとも有効とされているのがHRT(ホルモン補充療法)です。欧米では主流となっている治療法ですが、日本ではまだ受ける人が少ないのが現状です。
HRTに対する抵抗感は、一部の情報が誤解されたため副作用などリスクの高い治療だと不必要に怖がっている人が多いことがあげられます。
また、自然の摂理に逆らうのは良くないという日本人の気質や文化、価値観も関係していると指摘する専門家もいます。
最近は医療においてもインフォームド・コンセントが重要となっていますね。特に更年期治療においては、患者がみずから積極的に治療に関わる姿勢がとても大切です。
そのためにも、医者任せにするのではなく治を行う上でのメリットとデメリットを熟考しておくことがとても大切になります。